交通事故の後遺障害とは

1 後遺障害とは?

後遺障害」(後遺症)とは、交通事故によって人体に損傷を受け、その後、適切な治療を受けたにも関わらず症状が完治せず、将来においても回復の見込めない状態となってしまう症状であり、その後の労働能力の喪失を伴うものをいいます。

後遺障害は、事故後の被害者の方、ご家族の方の一生の生活に関わる非常に重大な問題です。

仮に、後遺障害について適正な方法で「等級認定」を受けられなければ、後遺障害が残っているにも関わらず十分な補償が受けることができないこと結果となってしまいます。

後遺障害の等級認定については、交通事故の専門家である弁護士でも対応が可能な弁護士とそうでない弁護士がいるようですので、後遺障害についてご相談される場合には、交通事故問題の解決に力を入れており、後遺障害に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

交通事故の後遺障害のポイント

  1. 後遺障害の認定
  2. 後遺障害慰謝料
  3. 後遺障害による逸失利益

2 後遺障害の等級認定

後遺障害には症状の状況によって1~14級までの等級があります。等級認定は1つ等級が違うだけでも賠償額が大幅に異なります。適正な賠償金を受け取るためにも後遺障害として残った状態に適した等級の認定を受けなければなりません。

事故の発生

お怪我の治療(通院・入院)

症状固定

後遺障害診断書の作成

後遺障害の等級認定申請

認定機関による審査と等級の認定

後遺障害の認定

3 後遺障害等級表と労働能力喪失率

等級 自賠責保険(共済)金額 労働能力喪失率
第1級 3,000~4,000万円 100
第2級 2,590~3,000万円 100
第3級 2,219万円 100
第4級 1,889万円 92
第5級 1,574万円 79
第6級 1,296万円 67
第7級 1,051万円 56
第8級 819万円 45
第9級 616万円 35
第10級 461万円 27
第11級 331万円 20
第12級 224万円 14
第13級 139万円 9
第14級 75万円 5

4 後遺障害慰謝料

(1)後遺障害慰謝料とは

後遺障害慰謝料とは、交通事故によって後遺障害が残った場合、被害者がその後遺障害の等級に応じて請求できる慰謝料のことをいいます。

後遺症慰謝料についても、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準ごとに支払基準が設定されています。

裁判基準は以下に示す通り、自賠法施行令に定める等級に応じた金額ではありますが、なお、裁判所基準は一応の目安ですので、以下に掲げる金額と異なる金額が実際の訴訟において認定されることは珍しくありません。

任意保険基準は、任意保険の会社が独自に社内的に定めている基準ですが、任意保険会社は基本的に自賠法施行令に定める等級の認定結果を重要な指標としています。いずれにせよ、後遺症慰謝料を請求する際には、自賠法施行令に定める等級として何級が認定されているかが非常に重要となります。

(2)後遺障害慰謝料の支払基準

自賠責保険基準

自賠法施行令別表Ⅰ・介護を要する後遺障害に適用 ()内は保険金総額
後遺障害等級 慰謝料額
第1級 1600万円(4000万円)
第2級 1163万円(3000万円)
自賠法施行令別表Ⅱ・別表Ⅰ以外の後遺障害に適用 ()内は保険金総額
障害等級 障害等級 障害等級
第1級 1100万円
(3000万円)
第6級 498万円
(1296万円)
第11級 135万円
(331万円)
第2級 958万円
(2590万円)
第7級 409万円
(1051万円)
第12級 93万円
(224万円)
第3級 829万円
(2219万円)
第8級 324万円
(819万円)
第13級 57万円
(139万円)
第4級 712万円
(1889万円)
第9級 245万円
(616万円)
第14級 32万円
(75万円)
第5級 599万円
(1574万円)
第10級 187万円
(461万円)
   
自賠法施行令別表第1
後遺障害等級 介護を要する後遺障害
第1級
  1. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの
  2. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,常に介護を要するもの
第2級
  1. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの
  2. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,随時介護を要するもの

備考:各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって,各等級の後遺障害に相当するものは,当該等級の後遺障害とする。

自賠法施行令別表第2
後遺障害等級 後遺障害
第1級
  1. 両眼が失明したもの
  2. 咀嚼及び言語の機能を廃したもの
  3. 両上肢をひじ関節以上で失ったもの
  4. 両上肢の用を全廃したもの
  5. 両下肢をひざ関節以上で失ったもの
  6. 両下肢の用を全廃したもの
第2級
  1. 1眼が失明し,他眼の視力が0.02以下になったもの
  2. 両眼の視力が0.02以下になったもの
  3. 両上肢を手関節以上で失ったもの
  4. 両下肢を足関節以上で失ったもの
第3級
  1. 1眼が失明し,他眼の視力が0.06以下になったもの
  2. 咀嚼又は言語の機能を廃したもの
  3. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの
  4. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの
  5. 両手の手指の全部を失ったもの
第4級
  1. 両眼の視力が0.06以下になったもの
  2. 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
  3. 両耳の聴力を全く失ったもの
  4. 1上肢をひじ関節以上で失ったもの
  5. 1下肢をひざ関節以上で失ったもの
  6. 両手の手指の全部の用を廃したもの
  7. 両足をリスフラン関節以上で失ったもの
第5級
  1. 1眼が失明し,他眼の視力が0.1以下になったもの
  2. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  3. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  4. 1上肢を手関節以上で失ったもの
  5. 1下肢を足関節以上で失ったもの
  6. 1上肢の用を全廃したもの
  7. 1下肢の用を全廃したもの
  8. 両足の足指の全部を失ったもの
第6級
  1. 両眼の視力が0.1以下になったもの
  2. 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの
  3. 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
  4. 1耳の聴力を全く失い,他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
  5. 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの
  6. 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
  7. 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
  8. 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指を失ったもの
第7級
  1. 1眼が失明し,他眼の視力が0.6以下になったもの
  2. 両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
  3. 1耳の聴力を全く失い,他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
  4. 神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  5. 胸腹部臓器の機能に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの
  6. 1手のおや指を含み3の手指を失ったもの又はおや指以外の4の手指を失ったもの
  7. 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの
  8. 1足をリスフラン関節以上で失ったもの
  9. 1上肢に偽関節を残し,著しい運動障害を残すもの
  10. 1下肢に偽関節を残し,著しい運動障害を残すもの
  11. 両足の足指の全部の用を廃したもの
  12. 女子の外貌に著しい醜状を残すもの
  13. 両側の睾丸を失ったもの
第8級
  1. 1眼が失明し,又は1眼の視力が0.02以下になったもの
  2. 脊柱に運動障害を残すもの
  3. 1手のおや指を含み2の手指を失ったもの又はおや指以外の3の手指を失ったもの
  4. 1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又はおや指以外の4の手指の用を廃したもの
  5. 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの
  6. 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
  7. 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
  8. 1上肢に偽関節を残すもの
  9. 1下肢に偽関節を残すもの
  10. 1足の足指の全部を失ったもの
第9級
  1. 両眼の視力が0.6以下になったもの
  2. 1眼の視力が0.06以下になったもの
  3. 両眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの
  4. 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
  5. 鼻を欠損し,その機能に著しい障害を残すもの
  6. 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
  7. 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
  8. 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり,他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
  9. 1耳の聴力を全く失ったもの
  10. 神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
  11. 胸腹部臓器の機能に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
  12. 1手のおや指又はおや指以外の2の手指を失ったもの
  13. 1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの
  14. 1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの
  15. 1足の足指の全部の用を廃したもの
  16. 生殖器に著しい障害を残すもの
第10級
  1. 1眼の視力が0.1以下になったもの
  2. 正面を見た場合に複視の症状を残すもの
  3. 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
  4. 14歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
  5. 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
  6. 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
  7. 1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの
  8. 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
  9. 1足の第1の足指又は他の4の足指を失ったもの
  10. 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
  11. 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
第11級
  1. 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
  2. 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
  3. 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
  4. 10歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
  5. 両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
  6. 1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
  7. 脊柱に変形を残すもの
  8. 1手のひとさし指,なか指又はくすり指を失ったもの
  9. 1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
  10. 胸腹部臓器の機能に障害を残し,労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
第12級
  1. 1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
  2. 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
  3. 7歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
  4. 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの
  5. 鎖骨,胸骨,ろく骨,けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
  6. 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
  7. 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
  8. 長管骨に変形を残すもの
  9. 1手のこ指を失ったもの
  10. 1手のひとさし指,なか指又はくすり指の用を廃したもの
  11. 1足の第2の足指を失ったもの,第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの
  12. 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
  13. 局部に頑固な神経症状を残すもの
  14. 男子の外貌に著しい醜状を残すもの
  15. 女子の外貌に醜状を残すもの
第13級
  1. 1眼の視力が0.6以下になったもの
  2. 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
  3. 1眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの
  4. 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
  5. 5歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
  6. 1手のこ指の用を廃したもの
  7. 1手のおや指の指骨の一部を失ったもの
  8. 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの
  9. 1足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの
  10. 1足の第2の足指の用を廃したもの,第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
  11. 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
第14級
  1. 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
  2. 3歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
  3. 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
  4. 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
  5. 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
  6. 1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
  7. 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
  8. 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの
  9. 局部に神経症状を残すもの
  10. 男子の外貌に醜状を残すもの
裁判所基準(赤い本ベースの場合)
障害等級 障害等級 障害等級
第1級 2800万円 第6級 1180万円 第11級 420万円
第2級 2370万円 第7級 1000万円 第12級 290万円
第3級 1990万円 第8級 830万円 第13級 180万円
第4級 1670万円 第9級 690万円 第14級 110万円
第5級 1400万円 第10級 550万円    

この基準額は一応の目安であり,事案ごとの個別的な事情に応じて,適宜慰謝料額の調整がなされます。

(3)近親者の慰謝料

被害者の方が重度の後遺症をもたらす傷害を負った場合,被害者の方本人だけでなく,被害者の方の近親者についても,独自の慰謝料請求が認められる場合があります。

近親者の慰謝料額は,概ね被害者本人の慰謝料額の10~30%程度です。

5 その他後遺障害認定によって認められるもの

(1)将来介護費(介護料)

ア 将来介護費とは

症状固定後以降に行われる付添介護費用や,付添介護に関係して要する費用のことを将来介護費といいます。医師の指示がある場合や症状の程度により必要がある場合に,被害者の方の損害として認められることがあります。

付添介護費用としては,職業付添人を雇った場合にはその実費全額,近親者が付添った場合には,具体的な介護状況に応じて,一定の日額介護費用が損害として認められることがあります。介護関係費用としては,訪問入浴サービス料や,老人ホーム入所保証料・施設利用料が認められた例があります。

イ 要介護期間

将来介護費を算出するにあたっては,原則として,症状固定から被害者の方の死亡までを要介護期間と考えることから,被害者の方の生存可能年数の認定いかんによって,将来介護費の額が大きく異なることになります。

裁判例では,簡易生命表により算出された平均余命から,被害者の方の生存可能年数を認めるケースが多く見られますが,遷延性意識障害(重度の昏睡状態)の被害者の方について,統計上,生存可能年数が通常人よりも短いとして,平均余命より短期の生存可能年数を認定した例もあります。

なお,将来介護費が定期金により支払われる場合であれば,理論上賠償額に過不足は生じませんが,定期金賠償では,介護初期に必要となる高額出費に対応できない上に,支払義務者の将来の資力が不確定であること等のデメリットがあることから,将来の出費予定,支払義務者の資力・担保の有無等を検討した上で慎重に選択すべきでしょう。

(2)装具・器具等購入費

交通事故により,義手,義足,義眼,義歯,カツラなどの装具の使用が必要となった場合,当該装具の購入費用はその全額が損害として認められます。装具の耐用年数により,一定期間ごとに交換の必要があるものについては,将来の交換分の購入費用も損害として認められることがあります。

症状固定以後に介護を行う必要がある場合,当該介護に必要な介護用品も損害として認められることがあります。

(3)家屋・自動車などの改造費

被害者の方の受傷の内容,後遺症の内容・程度から,被害者の方の今後の生活のために家屋や自動車を改造する必要がある場合には,被害者の方の家族の利便性の向上等を考慮した上で,必要相当額が損害として認められる場合があります。

他にも車椅子の使用が必要な場合のエレベーター設置費用・昇降リフト設置費用や, 階段のてすり設置工事費用,浴室・トイレのバリアフリー化工事費用等を認めた裁判例があります。

6 後遺障害による逸失利益

(1)後遺障害による逸失利益とは

後遺障害による逸失利益とは、交通事故の後遺障害による後遺症があるために失った,被害者の方が将来にわたって得られるはずであった利益(労働能力の喪失)のことをいいます。

後遺障害による逸失利益 =【基礎収入】×【労働能力喪失率】×【中間利息控除係数】

後遺症による逸失利益は,実務上,基礎収入に,後遺症により失われた労働能力の割合(これを「労働能力喪失率」といいます)と,労働能力喪失期間に対応した中間利息控除係数というものを掛けて計算します。

また後遺症により勤務先を退職した場合,現実にもらった退職金と,その後勤務を継続した場合にもらえたはずの退職金との差額も逸失利益となり得ますが,裁判例では,勤務先における退職金規程の存在や,定年まで勤務を継続した相当の蓋然性を要求しています。

(2)基礎収入

ア 給与所得者

給与所得者の基礎収入は,原則として事故前の現実の収入額を基礎に計算します。

しかし,この原則を貫いた場合,年収の低い若年労働者の逸失利益が不当に低く計算されるおそれがあります。それだけでなく,全年齢平均賃金を基礎とする学生の逸失利益のほうが高くなってしまうという不均衡が生ずる場合もあります。

事故前の実収入額が全年齢平均賃金よりも低額で,事故時概ね30歳未満の若年労働者については,生涯を通じて全年齢平均賃金程度の収入を得られる可能性があれば,全年齢平均賃金を基礎収入として計算するというのが裁判実務で有力な考え方となっています。

イ 事業所得者

事業所得者の場合,原則として前年度の確定申告額に基づく収入額から固定経費以外の経費を差し引いた金額を基礎収入とします。

なお,事業所得者は,申告所得額を現実の収入額とみて,基礎収入が算出されますが,現実の収入額が申告所得額よりも高いことを証明すれば,現実の収入額が基礎収入として認められることがあります。

ウ 家事従事者

原則として全年齢平均賃金を基礎収入とします。パート収入がある兼業主婦であれば,実際の収入額と全年齢平均賃金のいずれか高いほうを基礎収入として休業損害を計算するのが一般的です。

エ 学生

原則として全年齢平均賃金を基礎収入とします。被害者の方が大学進学前であっても,諸般の事情から大学進学が見込まれる場合には,大卒の賃金センサスによる基礎収入の算定が認められる場合があります。

オ 失業者

被害者の方に労働能力と労働意欲があり,就労の可能性がある場合には,原則として失業前の収入を参考に基礎収入を計算します。失業前の収入額が賃金センサスの平均賃金額を下回っている場合には,将来平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があれば平均賃金額が基礎収入となります。

カ 高齢者

就労の蓋然性が認められる場合には,賃金センサス年齢別平均の賃金額により基礎収入を算定します。

(3)労働能力喪失率

労働能力喪失率とは,後遺症によって失われる労働能力を数値化して表現したものです。実務では,労働能力喪失率表という,後遺障害の等級に応じた労働能力の喪失率を定めた表を参考に,被害者の方の後遺症の程度,性別,年齢,職業その他諸般の事情を考慮して,労働能力喪失率を算定しています。

労働能力喪失率表
障害等級 障害等級 障害等級
第1級 100/100 第6級 67/100 第11級 20/100
第2級 100/100 第7級 56/100 第12級 14/100
第3級 100/100 第8級 45/100 第13級 9/100
第4級 92/100 第9級 35/100 第14級 5/100
第5級 79/100 第10級 27/100    

(4)労働能力喪失期間

ア 労働能力喪失期間とは

後遺症があると,首の痛み,しびれがとれなくて仕事が事故前の8割程度しかできないなどの影響が何年も残ることがあります。場合によっては,脚を片方失ってしまったというようなこともあり,そのような被害者の方は一生影響を受け続けることになるのです。このように,後遺症によって労働能力が失われてしまう期間のことを,労働能力喪失期間といいます。

労働能力喪失期間は,原則として症状固定日から67歳までの期間とされます。被害者の方が未就労者である場合は,労働能力喪失期間の始期は症状固定日ではなく,18歳または22歳(大学卒業を前提とする場合)となります。なお,労働能力喪失期間は,被害者の方の職業,能力,後遺症の程度,機能回復の見込み等の状況により,上記の期間よりも短い期間に制限される場合があります。

なお,高齢者については,上記の原則をそのまま当てはめると,計算上労働能力喪失期間がまったく認められなかったり,認められてもきわめて短期間となってしまったりする場合がありますが,症状固定時から67歳までの年数が簡易生命表により求めた平均余命年数の2分の1以下となる方については,原則として,平均余命年数の2分の1の期間が労働能力喪失期間となりますのでご注意ください。

イ 労働能力喪失期間が制限される場合

一般に労働能力喪失期間が制限されやすい場合としては,むち打ち症といわれる後遺障害等級12級13号(旧12号)・14級9号(旧10号)のケースが挙げられます。

これらの後遺障害の場合は,通常,前者については5~10年程度に,後者については5年以下に労働能力喪失期間が制限されます。

むち打ち症以外の比較的軽微な後遺障害の場合については,労働能力喪失期間を短期に制限した裁判例もあるものの,一般的にはむち打ち症に比べ長期間の労働能力喪失を認めています。

(5)中間利息控除

ア 中間利息とは

逸失利益は被害者の方が将来にわたって得られるはずであった利益です。しかし,将来受け取るべき利益を現時点でそのままの金額で受け取ってしまうと,本来受け取ることができる時点までに発生する利息の分被害者の方が不当な利益を得ることになってしまいます。

そこでこの利息分に対応する金額(=中間利息)を予め差し引いておくために,中間利息控除という作業が行われます。

イ 中間利息控除の方式

中間利息控除の方式には,有名なものとしてライプニッツ方式とホフマン方式があり,両者の違いは,前者が中間利息を複利計算で算定するのに対し,後者は単利計算で算定する点にあります。最高裁は,いずれの方式を採ってもよいとしていますが,現在の実務ではライプニッツ方式を採るのが主流となっています。

ライプニッツ方式での中間利息控除は,労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を求めた上,これを労働能力喪失率に相当する収入額(喪失収入額)に乗じる方法で行います。

なお,控除される中間利息の利率については,従来争いがありましたが,最高裁により,民事法定利率である年5%の利率に拠るものとされました。

ウ 中間利息計算の起算点

ライプニッツ係数を求めるのに必要となる被害者の方の労働能力喪失期間は,症状固定時を起算点として算出する例が実務の多数です。したがって,通常の有職者の場合であれば,症状固定時の年齢を67歳から差し引けば,就労可能年数を求めることができます。

ライプニッツ係数表(年利5%)
能力喪失期間(年) ライプニッツ係数 能力喪失期間(年) ライプニッツ係数 能力喪失期間(年) ライプニッツ係数 能力喪失期間(年) ライプニッツ係数
1 0.9524 18 11.6896 35 16.3742 52 18.4181
2 1.8594 19 12.0853 36 16.5469 53 18.4934
3 2.7232 20 12.4622 37 16.7113 54 18.5651
4 3.5460 21 12.8212 38 16.8679 55 18.6335
5 4.3295 22 13.1630 39 17.0170 56 18.6985
6 5.0757 23 13.4886 40 17.1591 57 18.7605
7 5.7864 24 13.7986 41 17.2944 58 18.8195
8 6.4632 25 14.0939 42 17.4232 59 18.8758
9 7.1078 26 14.3752 43 17.5459 60 18.9293
10 7.7217 27 14.6430 44 17.6628 61 18.9803
11 8.3064 28 14.8981 45 17.7741 62 19.0288
12 8.8633 29 15.1411 46 17.8801 63 19.0751
13 9.3936 30 15.3725 47 17.9810 64 19.1191
14 9.8986 31 15.5928 48 18.0772 65 19.1611
15 10.3797 32 15.8027 49 18.1687 66 19.2010
16 10.8378 33 16.0025 50 18.2559 67 19.2391
17 11.2741 34 16.1929 51 18.3390    

(6)生活費控除

後遺症による逸失利益の場合,死亡による逸失利益を請求する場合と異なり,原則として逸失利益から生活費は控除されません。

裁判例の中には,植物状態等の重度後遺障害者について,健常者よりも日常生活に支出する費用が少ないとして,生活費を控除したものもありますが,現在の裁判例では生活費を控除しないものが多数を占めています。