むちうち

1 「むち打ち」とは

「むちうち」(むち打ち)とは、自動車の追突等が原因で起こることが多い後遺障害で、頸椎捻挫、頸部挫傷、外傷性頸部症候群、バレ・リュー症候群などをいいます。なお、むち打ち自体は正式な傷病名ではありません。

むち打ちは,事故直後にはあまり痛みなどはなく,また交通事故直後の病院での検査で異常が認められず、2、3日経過した後から症状が現れ始めて、じわじわと首や腰に痛みを感じたり、頭痛や肩こり、めまいといった症状が現れることが多い後遺障害です。

2 むち打ち損傷の5類型

むち打ちは,医学的には,その病態から以下の5型に分類されるのが一般的です。

(1)頸椎捻挫型

頸部の筋線維,前後縦靭帯,椎弓間靭帯,棘間靭帯,椎間関節包等の軟部組織が過度に伸びたり断裂したことによって生ずるものです。むち打ち損傷の70%以上がこの類型といわれています。

症状としては,首回りや後頭部,肩部の痛みや頸椎の運動制限等が生じます。

(2)神経根症状型

神経根症状型は文字通り神経根の圧迫を原因として症状が発生するものです。症状としては,圧迫されている神経が支配する領域における知覚障害の他,放散痛,疼痛等が生じるとされています。この症状が出ている場合には,分節性知覚異常,深部反射の減弱,筋力低下の他スパーリングテスト,ジャクソンテスト等の神経根症状誘発テストでの陽性反応が認められます。

(3)バレー・リュー症状型

頸部交感神経の過緊張や椎骨動脈の循環障害等の影響で発生するといわれている症状ですが,はっきりとした原因は未だ解明されておりません。症状としては,めまい,耳鳴り,頭痛,記憶障害,倦怠感,吐き気等が生じ,慢性化する傾向にあるといわれています。

(4)根症状+バレー・リュー型:2+3

神経根症状型の症状とともにバレー・リュー症状型の症状も生じるものです。

(5)脊髄症状型

脊髄症状型は,脊髄本体が損傷されることを原因として症状が発生するものです。症状としては手足の知覚,運動障害が生じます。事故に遭われる以前から,加齢等を原因として脊柱管が狭くなっていた方や,頸椎後縦靭帯骨化症や頸椎症などによって,脊髄の圧迫を受けていた方などは,交通事故の衝撃によって,この症状を発症することがあります。この脊髄の損傷は,脱臼や骨折がなくても生じることから「非骨傷性頸髄損傷」といわれています。ただし,この類型は,現在は脊髄損傷として考えられており,むち打ち損傷の類型としては考えられておりません。

3 むち打ちと後遺障害認定

むちうちは,後遺障害等級で14級や12級の後遺障害として認定される可能性がある後遺障害です。

もっとも、むち打ちは外見からは外傷が確認できないという特徴があり、後遺障害認定がなされにくい傷病の一つです。後遺障害の等級認定を獲得するためには、適切な検査を行い後遺障害の認定を受けることが大切です。

むちうち症の等級認定
等級 労働能力喪失率 労働能力喪失期間 認定基準
12級13号 14% 5~10年 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 5% 5年以下 局部に神経症状を残すもの

むち打ちの診察

医師の診察においては,骨折を判別するレントゲン画像ではなく、神経の状況を把握することができるMRI画像での診察をしてもらいましょう。むちうち症の後遺障害の等級認定にはMRI画像が必要になることが多いです。

しかし、診察を担当する医師がむち打ちに対する知識を十分に持っていなければ、適切な検査が行われないことも多いです。むち打ちの検査や治療を行う際には、むち打ちに精通したドクターの下で検査と治療を行うことをお勧めします。

むち打ちも,他の後遺障害と同様、むちうちに詳しい専門の医師による適切な診断や治療が行なわれない場合、後遺障害の等級認定が行なわれない場合があります。決してむちうちだからと軽く見ずに、交通事故問題に詳しい弁護士、むちうちに詳しい医師へ相談しましょう。

4 むち打ちと治療の打ち切り

むち打ちは、その症状が外部から客観的に把握しにくく、保険会社によっては、治療を途中で打ち切ることを主張してくるところもあります。

症状固定かどうかは医学的な判断になりますので、保険会社の主張をそのまま受けいれるのではなく、医師の先生とよくお話しして治療継続の要否について判断することになります。

当事務所では、医師の治療継続の判断にもかかわらず、保険会社が支払いの打ち切りを主張する場合、医師の診断書の提出などを受け、保険会社に治療の継続を認めるよう働きかけを行っています。